川根本町民インタビュー

【川根本町民インタビューvol.2】上田まり子さん・山本敦子さん(cafeうえまる 店主)

「毎年チャレンジなんです。それがかえって面白かったのかもしれません」

 

静岡県川根本町出身・生来在住(上田さん)

静岡県川根本町出身・2013年にUターン(山本さん)

 

だいぶ見慣れてきたけれど、川根本町で暮らすなかで出会った人の多くが、なにかしらの作物を育てている。専業の農家だけではない。皆がそれぞれの仕事や生活を送りながら、家の庭(これがたいていけっこう広い)でトマトやらナスやらを育てていて、それらが毎日の食卓にふるまわれている。当然、自給していない人もいる。でもそういった人たちですら、生活のどこかしらに農的な瞬間がふくまれている。

 

上田まり子さん・山本敦子さん親子もまた、農的な色彩の濃い方々である。二人は山間の小さな集落である八木地区に農園をもっており、そこには200本を超えるブルーベリーの果樹や数十条の茶畑が広がっている。小規模ながらもナスやピーマン、シイタケの原木なども育てている。上田さんが農業を始めてからすでに40年以上が経つ。とはいえ二人は単に農家というわけではない。「うえまる」というカフェを経営し、自ら育てた野菜や果物をつかった料理を提供しているのだ。先日、10周年を迎えた。土から皿までのほとんどは、家族や地域の人たちを巻きこみながらも、おもに母娘二人の手によって行われている。手間はかかるが、それでも無農薬栽培をこだわりとしている。

 

インタビュー自体はカフェの店内で行ったが、別のある日、八木の農園にもうかがった。お二人のご厚意のもと、小売店ではなかなか見ないほど長くてずんぐりとしたナスやキュウリをもぎ、電柵に囲われたブルーベリー畑で数種類の実をいくつか食べさせてもらった。生産者がじかに語る物語を聞きながら。上田さんが工夫のあれこれを嬉しげに話し、山本さんが適宜説明を補った。二人はその間にも、道の端にいた益虫カマキリをナスの枝まで運んだり、ブルーベリーの果樹の剪定について話し合ったりしていた。街で育ってきた私とは、なんと日常的な景色が違うことだろう。終始そんなことを思った時間だった。

 

 

(以下、インタビューにて発言者の敬称略)

 

移動販売から始まった

 

— そもそもなぜお店を始めることになったんですか?

 

上田:平成7年から移動販売の仕事を地元でやりだしたんですよ。農業の副業という感じで。昔から地元で作っていた「おぼた」(俗にいうぼた餅のこと)とか、うちで挽いた蕎麦とか。ブルーベリー農家でもあったので、それをジャムにして売ったりもしていました。

 

山本:わたしも小さいときから手伝っていました。高校を卒業して東京に出て、食品会社に就職し、その後川根にUターンして、実家の仕事を手伝い始めました。お惣菜とパンも売るようになりました。実家にちょっとした加工所があったのでそこで作っていました。

 

上田:移動販売は車で町内の家を訪問するんです。農業のほかにも健康食品関連の仕事をしていたので、移動販売は月に1、2回でしたけど、みなさん楽しみに待っててくださるんです。その日のうちに完売してしまうことがほとんどでした。

 

しばらくそんな感じでやっていたんですけどね、あるとき千頭駅前で販売していたら、観光客の方がいらっしゃって「やっと食べ物にありつけました」と仰ったんですね。接岨湖とか井川の奥の方に行くとご飯処もないし、駅前のお店も早い時間に閉まってしまいますから。なるほど、観光客の方って、食べ物に困っている食料難民なんだなぁと気づいたんです。

 

それからいろいろとご縁があり、じっさいに店舗を構えることになりました。移動販売は拠点がないので、買いたいという人がいてもなかなか買いに来てもらうことが難しいなと感じていたときのことでした。それに、店舗を構えることで、川根本町で育った作物を町内外のお客様に食べてもらえたら、街の魅力発信にも繋がるかなという思いもありました。それが10年前です。場所が駅前だったので、電車の時間に間に合うようにすぐ食べられるものを作っていましたね。

 

 

— どちらが10年前にこの店を始めようと仰ったんですか?

 

上田:うーん、二人ともです。いちかばちかですね。恐れを知らないですよね。

 

でも、観光客の方がね、食べ物がないという時点で長くはいてもらえないじゃないですか。見ていただきたいものは夢の吊り橋とかアプト鐡道とかたくさんあるのに、食べ物がないからコンビニや下の街まで出ちゃおう、となってしまうのは、せっかく来てもらっているのに残念だ、という思いが二人のなかにあったんですね。

 



うえまるの「まる」は地元住民やお客様とつくる輪

 

— どんなお店にしようと考えていましたか?

 

上田:安心のために地元食材をたくさん使いたいと考えていました。家で昔から作っていた野菜を使ったり、地元の知り合いの農家さんの野菜を使わせてもらったり。

 

家をリフォームしたときに来てくださった大工さんが農業もやられていてね。無農薬で、自家製の肥料でやっているので、もし余ったらうちで使わせてくださいとお願いしました。わたしの実家でも兄が農業に力を入れ始め玉ねぎなどを作っているので、もらったりもします。

 

季節とか土地柄もあるのでね、地元の外から買うこともあります。だから地元じゃないと駄目だってことじゃないんです。でも地元の人の食材を使わせてもらえたら、その人も張り合いが出るでしょうし、おたがいに嬉しいでしょうから。お客様からしてもその土地のものを目にする機会ってなかなかないですからね。

 

— メニューを高校生と考えたりもされてますよね。

 

山本:塩郷ダムカレーのことですね。川根高校に地生学という、地域と交流して活性化を図る授業があるんです。学校から声を掛けてもらったんですけど、そのころメニューにダムカレーが二つあった(長島ダムカレー・大井川ダムカレー)ので他のダムカレーを作れたらと思って。高校生たちにも就職や進学の前に地域の良さを知っておいてほしいと思ったし、うちとしても若い方のご意見を聞いて、町の良さを発掘したかったんです。

 

上田:塩郷ダムカレーと大井川ダムカレーはインドカレーを使っています。町内にZohoというインド系の企業があるんですけど、以前社食を作ってくれないかという相談がうちに来たんですね。そのときにインドカレーを教わったんです。

 

 

— 小さい町だからですかね、いろいろとつながってくる印象を受けます。

 

上田:自分たちでやるだけじゃなくて、お互いに関係を持ちながらやるのが楽しいですよね。

 

うちがなんで「うえまる」かというと、うえは「上」、つまり向上心で、まるは「丸」、つまりお客様や地元の方々との輪を大事にしていこうという意味なんです。お店のロゴに書いてある野菜は、たとえば梅は大村さんという農家さんから、小麦は青部の上中さんから仕入れています。地域の人たちの協力も得て食材を仕入れていることをを表しているんです。

 

山本:山菜採りの名人みたいな人もいるよね。畑ではなかなかワラビとかフキは育たないので、そういう名人たちから提供してもらうんです。買わせてもらうこともあれば、物々交換のときもあります。

 

 

栄養バランスを崩したアトピーの経験

 

— 山本さんは管理栄養士なんですよね?

 

山本:そうです。川根に18歳までいて、栄養を学ぼうと思って東京に行きました。でも栄養を学んでいる一方で、食生活に偏りが出て、すごいアトピーになったんですよ。顔、首、手、背中まで真っ赤になってしまって。ストレスもあったと思いますけど、ひとつには食生活も原因だったんですよね。

 

上田:こっちにいるときは私も手づくりの食事を出していましたし、家のすぐ横の畑で野菜もたくさん採れました。そういう生活をしていたところから都会でひとり暮らしとなるとね。

 

山本:畑から採ってきたものであればミネラルなども多いんですけど、都会では意識して取っていかないと。必要なものを取り入れないとどうなるかというのが、リアルに分かったんです。その経験はいまお店をやるうえで活きていて、わたしたちの料理を通して、観光客や地元の人たちに健康になってもらえたらという想いでやっています。

 

 

毎年悩んで、今年も無農薬を選ぶ

 

— そもそも農業はいつから?

 

上田:農業は私が始めたわけではなくて、お嫁に行った先の家が農家だったんです。なのでもう45年になりますね。そのときはほとんどがお茶畑で、すこしブルーベリーがありました。

 

— だいぶベテランですね。

 

上田:そんなことないんです、失敗ばっかりで。当時は、夫のおばあさんも、夫の両親もいて、あと夫に私、それに子供が三人いました。いまの核家族とちがって、人手がたくさんいたから、できたのかもしれないです。

 

それに、農業って一年前と同じようにできるわけじゃないんです。毎年気候も変わるし。だから毎年チャレンジなんです。それがかえって面白かったのかもしれません。

 

こだわっているのは、無農薬栽培です。無農薬でいこうと決めたのは私です。健康食品関連の仕事を昔やっていたのでね、農薬について知識があったのもあります。それに、自分たちが食べるなら自然に育ったものを食べたいなって。

 

 

— 無農薬は何が大変なんですか?

 

上田:虫です。何度もちょうちょが卵を産みにきたり、青虫をいくら取ってもまたついていたりとか。

 

虫を取っているときに、ときどきこんなことをしていていいのかなと思うんです。生産性を考えたら絶対に使った方が速いしたくさん採れるし。でもねえ。

 

敦子さんにも毎年訊くんです。「どうする今年?大変だからやめる?」って。でも結局またやることにするんです。

 

「うえまるで食事したら美味しかったのでまた来ました」と言ってくれるお客さんがいるんです。それって、もうこの上ない幸せですよね。そういうことに励まされて頑張っているんです。

 

山本:そういう意味で、この仕事はやりがいがすごいよね。

 

— これからお店をこうしていきたいなというのはありますか?

 

上田:近々の予定としては、通信販売で農作物をお届けできる形をつくりたいなと思っています。地元出身の方とか、川根本町を訪れた方の思い出として。農家さんたちも、近くの道の駅などに卸すことはしていても、そこから先の通信販売までは大変じゃないですか。わたしたちが通信販売のかたちをつくっていければと考えています。

 

― 本日はお話ありがとうございました。

 

 

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Contact

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(インタビュー・文・写真:佐伯康太

 

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