川根本町民インタビュー

【川根本町民インタビュー vol.15】澤畑真人さん(神田組・エナジーファーム)

「耕作放棄地をどうにかしなきゃいけない。そこにはもう責任まで感じてきている」


川根本町出身

 

川根本町にはもちろんいくつもの見るべきものがある。吊り橋や温泉から、粒だちのよい町民が営む店まで、サイズは様々あれど。しかしそれらとは違って住所を持たず、ただ道を車で走っている、あるいは歩いているなかで知らず知らず感じてしまうという類の、匿名的で総合的な要素も多々ある。そそり立つように迫る山肌、悠然とうねり流れる河川、青々と連なる茶畑。これらは誰の目にも、川根本町についてのなにかしらの印象を残すだろう。特筆されることはないだろうが、ここに細く曲がった道路や、そこに押しよせる大型トラックの縦隊を加えてもいいかもしれない。個人的には初めて車で川根を訪れたとき、道の窮屈さとトラックの豊満さのちぐはぐ加減に軽く目を瞠ったものだ。

 

今回お話を伺う澤畑真人(さわはた まさと)さんの仕事は、そういった町の普遍的な印象にまで及ぶ。澤畑さんは町内にある二つの株式会社、神田組とエナジーファームで働いている。神田組は土木工事事業を行う。たとえば道路の新設、地滑りの復旧など。思えば、私の目を引いたあのトラックたちにも「神田組」、あるいは他の土木会社の屋号が掲げられていた。エナジーファームは農業事業を主幹とし、太陽光発電なども行っている。抗しがたく増え続ける放棄茶園を再利用している点に川根らしさがある。

 

その二社で澤畑さんは経理を担っている。つまり資金の面から関わるということだ。10年前に神田組に入社して以来、もっとも力を入れてきたのは原価計算だと澤畑さんは語る。現場との綿密な数値の共有、会計ソフトの導入、利益については計画的な節税。彼の着任以降、それまで安定していなかった神田組の財政は10期連続黒字をマークしている。そんな澤畑さんのタフな働きぶりについて訊ねる中で「責任」という言葉が出てきた。川根本町での彼の取り組みを、仕事からプライベートにわたってお伺いした。


 

 

放棄茶園を力に変える

 

— 真人さんの肩書きとしてはまず第一に神田組があるわけですが、個人的にはエナジーファームの真人さんという印象が強いんです。自分も一度農業アルバイトをさせていただいていますし。まずはそちらからお話を伺えたらと。

 

エナジーファームに携わりだしたのは4年ぐらい前かな。俺が財務管理兼営業部長として入って、実質は社長に近い仕事をさせてもらっている。

 

どんな会社かといえば、これは経営理念に集約されているんだけど、「川根を元気にする会社」。川根を元気にするというのは、自分としてもここでやりたいこと。


 

— 会社のホームページに載っているのを拝見しましたけど、やわらかい響きでいいですよね。元気に、というのはどういう状態を描いているんでしょう?

 

たしかに判断は難しいんだけど。自分はやっぱり経理上がりだから、感情面よりも、数字のビジネス的なところを考えてしまう。地方経済の活性化というか。

 

そのためには何よりも圃場の拡大。畑が増えれば収穫量が増えて、それに伴って販路も拡大できるじゃない。農作物は、昔はいろいろやっていたんだけど、いまは柚子・栗・さつまいもに絞っている。

 

— 製品への加工もされていますよね。エナジーファームの、干し芋と柚子ポン酢、個人的に大好きなんですよ。

 

商品自体は昔からあったんだけど、ポン酢はブレンドを少しずつ変えたり、パッケージを新しいデザインに変えたりしたこともよかったかもしれない。

 

 

 

— どういったところをウリにしているんですか?

 

まずは農薬を使わないということ。たしかに虫に食われるし、草も生えるんだけど、必ず売り先につなげるから協力してくれ、って現場には伝えている。といっても、ひとりで街に出て飛び込み営業をかける中で、そんなにうまく行くことばかりでもないんだよね。

 

あと特徴としては、もともと耕作放棄地だった茶畑を再生して作物を育てている。言ってみれば、マイナスからプラスを生み出す、ってことになるかな。


 

— いわゆる放棄茶園ですよね。

 

そうなんだよ。川根本町の耕作放棄地の面積は、令和5年に調べたら110ヘクタールまで増えていたんだよ。

 

エナジーファームが再生できている土地は5.5ヘクタールだけ。まだ20分の1。最終的には、荒れている畑をなくしたい。大変なんだけど、少しずつでも減らしていきたい。

 

耕作放棄地をどうにかしなきゃいけない。そこにはもう責任まで感じてきているかな。

 

— 責任。

 

やっぱり自分はこの土地に生まれた人間だからなあ。

 

澤畑家の土地に、昔は耕作放棄地なんてなかった。けど、いまはある。

 

かつては、ひいじいちゃんがお茶をやっていてね。でも、おじいちゃんは学校の先生だったもんで、お茶をあまりやれなかった。そのタイミングあたりからお茶の需要が下がりだしていたかな。

 

俺の親父はそれでも頑張ってやっていたほうだね。兼業農家として、平日はサラリーマンで、休日に畑仕事をしていた。

 

で、それがとうとう俺のところまで下りてきた。俺は神田組とエナジーファームを全力で駆使していくつもり。

 

実は数年前に、実家の茶畑すべてに、ソーラーパネルを設置したんだよ。部材はエナジーファーム、整地は神田組に頼む形で。


 

— 茶畑で太陽光発電ですか?

 

そうそう。いわゆるソーラーシェアリングという仕組み。

 

茶畑の上空にソーラーパネルを設置し、上で発電をする一方で、下でお茶を育てる。遮光率という考え方があって、その比率が40%くらいまでであれば問題ない。パネルの隙間から60%の光が当たればお茶は育つという研究結果があるんだよ。だからそのギリギリまで光を遮るように設計した。

 

町内で2か所やっているんだけど、そのうちの1つはショウキチ(ゲストハウスゆる宿Voketto オーナー)がプロデュースしてくれた。昔、1年間ぐらいうちで働いてくれていたんだよね。設置の金額も高いんだけど、ショウキチと一緒に一気に取りかかってスムーズに完成させられたから良かったよ。


 

新しい道をつくる、いまある道を守る

 

— ところで、神田組に勤めることになったのはどうしてですか?

 

一度町を出て、藤枝のお茶屋に勤めていたんだけど、そこを辞めてから地元で1,2か月くらいフラフラしていた。そのときに神田組の部長に、商業高校を出たんだから神田組で経理やらないか、と誘われて。訊けば、新しい道路をつくったりしている会社だとか。

 

新しい道をつくる、っておもしろそうだなと思った。いまもまだそうだけど、川根は道が結構悪かったから。それに自分が島田や静岡に出ていくとき楽になるかもしれない。物流のコストを抑えることにもなる。そんな可能性に惹かれた。

 

たとえば、青部にある本川根と中川根を結ぶバイパスの一部。あれは神田組がつくったんだよ。

 

— え、自分もふだん良く使う道です。かなり新しいですよね。

 

完成したのは俺が神田組に入ってから。あれが出来上がったときに、まさに生活が楽になったね。この会社で働くことにしたのは間違ってなかったなと思えた。

 

— いまだに島田と千頭を結ぶルートを検索すると、徳山から青部にかけての山沿いの細い道が出るんですよ。昔はあの道を通っていたということですか?

 

そうなんだよ。トンネルができたことでズバッと通れるようになった。

 

— 知らず知らずとても恩恵にあずかってました。

 

次は静岡市に向かう362号、そこにトンネルを抜きたい。いま神田組でやっているんだよ。静岡市への道が直線的なものになれば、川根本町への物流や観光はがらりと変わる。そういう大きな課題にアプローチできるのは、この土木業界だなとつくづく思う。

 

もちろん一筋縄ではいかない。なかなか着工できないし、費用もかかりまくる。何より、岩盤がとんでもなく固い。ダイナマイトを使って爆破しているんだよ。オフィスに届く請求書に「ニトロ」とか書いてあるから、すごい現場だなと思うよ。

 

— こういう田舎町においては、道はいちばん根本的な話ですよね。土砂崩れで、道がふさがれるたびにそう思います。

 

今日(9/18)も寸又峡で落石があって、10人の人が取り残されてしまっているらしい。災害があると、びっくりするような損害が出るからね。だから災害時のシュミレーションだけは本当に必須。

 

じつは実家の茶畑にソーラーパネルを設置したときから、蓄電に興味があった。売るんではなくて自分が使うために。最近夢がかなって、電気自動車を買ったんだよ。そのバッテリーは家にあると蓄電池としても使える。災害時に電気がシャットダウンしても、車から家に電気を供給できるシステムがすでに構築できているというのは安心感が強い。それは家族を守るうえで、優先順位が高かったんだよ。

 

狭い範囲なんだけど、まずは手の届く奥さんと子どもを守らないと。災害で電気が止まっても、3日から、晴れれば1週間、電気を供給できる。それが直近で最もよかったと思うことかな。

 

— お話ありがとうございました。




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(インタビュー・文・写真:サエキ)

 

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